心臓の手術・治療を受けても介護フリーを目指す――心臓リハビリは「退院」で終わらない

心臓手術後も自立した生活を目指して元気に歩く高齢者夫婦と、心臓の回復を表すハートと上向き矢印のイラスト

心筋梗塞、狭心症、心不全、不整脈、心臓弁膜症――。

年齢を重ねると、それまで普通に暮らしていた人が、ある日突然、心臓や血管の病気で入院し、手術やカテーテル治療を受けることがあります。

幸い、現在の心臓医療は大きく進歩しました。

私自身、62歳のときに心房細動が頻発し、平穏な生活を送れなくなってアブレーション治療を受けました。

私の場合、治療の効果は劇的でした。

心房細動はぴたりと止まり、普通の生活が戻ってきました。

「一昔前なら、ここで人生が終わっていたかもしれない」

そう思うと、今でも高度医療には感謝しかありません。

そして何よりうれしかったのは、また、心臓に負荷をかける運動が、できるようになったことでした。

ところが当時、私は「心臓リハビリテーション」という治療体系をほとんど知りませんでした。

今回、2026年の最新Cochraneレビューと日本の心臓リハビリガイドラインを読み直してみると、一つ大切なことが見えてきました。

心臓の治療に成功して退院することは、ゴールではありません。

その先には、

再入院をできるだけ防ぐ。
体力と筋力を取り戻す。
そして、できるだけ最後まで自分の足で生活する。

という、もう一つの目標があります。

そのための医療が、心臓リハビリです。

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心臓リハビリは「歩く練習」だけではない

「心臓リハビリ」と聞くと、

手術後に病院の廊下を歩く練習

を想像するかもしれません。

しかし、実際にはもっと広いものです。

日本心臓リハビリテーション学会は、心臓リハビリを、身体的・心理的・社会的状態を改善し、再発・再入院・死亡を減らし、「快適で活動的な生活」を実現するための長期的で包括的なプログラムと位置づけています。(参考文献1)

つまり、

心臓リハビリ=運動だけ

ではありません。

運動に加えて、

  • 筋力を取り戻す
  • 食事を整える
  • 薬を適切に使う
  • 血圧・コレステロール・血糖を管理する
  • 禁煙する
  • 自分の病気との付き合い方を学ぶ

ところまで含まれます。

言い換えるなら、

「治してもらった心臓を使って、その後の人生をどう生きるか」まで支援する医療

なのです。

最新Cochraneレビューでは、心筋梗塞と入院が減った

2026年9月、Cochraneから冠動脈疾患患者の心臓リハビリに関する最新レビューが発表されました。

集められたのは107件のRCT(ランダム化比較試験:本当にその治療法に効果があったのかを正確に確かめるために行われる試験)。

参加者は合計26,886人でした。(参考文献2)

対象の多くは、心筋梗塞を経験した人、PCI(カテーテルを用いて狭くなった心臓の血管〈冠動脈〉を内側から広げる治療)を受けた人、CABG(狭くなった冠動脈を迂回する血液の通り道をつくる冠動脈バイパス術)を受けた人たちです。

6~12か月後を比べると、運動を中心とした心臓リハビリに参加した人では、

  • 心筋梗塞が約28%少ない
  • 全原因による入院が約35%少ない
  • 全死亡は約14%少ない傾向
  • 生活の質(QOL)が改善
    (参考文献2)

という結果でした。

具体的には、心臓リハビリを受けた人では、受けなかった人に比べて、6~12か月の間に、71人あたり心筋梗塞が1件、17人あたり入院が1件少ない計算でした。(参考文献2)

心臓リハビリをした人としなかった人の6~12か月後を比較し、心筋梗塞約28%減、入院約35%減、全死亡約14%減の傾向、QOL改善を示した図
図1 心臓リハビリをした人/しなかった人――6~12か月後の違い

この結果を見て、私は特に「入院」に注目しました。

高齢者にとって入院は、病気を治療する場所である一方、

高齢者では、入院中に歩く時間や筋肉を使う機会が減り、ベッドで過ごす時間が増えることがあります。

その結果、

心臓は治った。でも以前のように歩けなくなった。

ということも起こり得ます。

だから、再入院を減らすことは、自立生活を守るという意味でも重要なのです。

退院後は、「安全に動ける範囲」を知るところから始める

心臓病を経験すると、

「また発作が起きたら怖い」

と思うのは当然です。

そのため、

怖いから動かない

という方向へ行きがちです。

しかし、動かなければ筋力も体力も落ちていきます。

心臓リハビリの重要な役割の一つは、

「運動するか、しないか」を決めることではなく、「どこまでなら安全に動けるのか」を調べること

にあります。

日本のガイドラインでは、心臓リハビリを次の3段階に分けています。

1.急性期――まず日常生活へ戻る

ICU(集中治療室)、CCU(循環器疾患集中治療室)、病棟で、食事、トイレ、着替え、歩行などが安全にできるところまで戻します。

長く寝たままにすると、運動能力が低下し、フレイルが進むため、状態が許せば早期から離床を始めます。(参考文献1)

2.回復期――体力を取り戻す

退院後は、必要に応じて外来心臓リハビリに移り、必要に応じて運動負荷試験を行い、

「自分にはどのくらいの運動が安全なのか」

を確認します。

ウォーキングや自転車運動、筋力トレーニングを徐々に増やし、食事、薬、禁煙、血圧などの管理も身につけていきます。(参考文献1)

3.維持期――運動を生活へ戻す

そして最後が維持期です。

ガイドラインでは、維持期は社会復帰後、生涯にわたって続けるものとされています。(参考文献1)

一生病院へ通うという意味ではありません。

病院で学んだ運動を、

散歩、買い物、筋力トレーニングなどの日常生活へ戻していく。

そこが最終目標です。

高齢者では「歩く+筋力」が大切

有酸素運動の代表はウォーキングです。

高齢者が安全に運動を始めるための強度や考え方は、高齢者が運動する上で、知っておくべきこと──科学的根拠に基づく「正しい努力」で健康寿命を延ばすためにで詳しく解説しています。

状態が安定した人では、「少し息が弾む」「ややきつい」と感じる程度の中強度運動が一つの目安になります。(参考文献1)

ただし、最初から30分歩く必要はありません。

5分でも10分でも構いません。

昨日より少し歩ける。

先週より疲れにくくなる。

その積み重ねです。

そして今回、冠動脈疾患患者17研究、176,862人をまとめた2026年の新しいメタ解析から、もう少し具体的な目安が見えてきました。

余暇など仕事以外の身体活動が週150分程度の中強度に相当する人では、ほとんど身体活動をしていない人に比べて、全死亡の起こりやすさが38%低い関連がみられました。

週300分程度では、39%低い関連でした。(参考文献4)

つまり、この解析の推定値では、週150分と週300分で、全死亡との関連の大きさはほぼ同程度でした。

一方、それ以上の高い活動量では研究データが少なく、結果も不確かでした。

ここから、

「たくさん運動すればするほどよい」

とは言えません。

また、この研究はランダム化比較試験ではなく、観察研究をまとめたものです。

身体活動は自己申告で、研究間のばらつきも大きく、研究者はエビデンスの確実性を「非常に低い」と評価しています。(参考文献4)

したがって、

「週150分運動すれば死亡率が38%下がる」

と因果関係として受け取ることはできません。

それでも興味深いのは、死亡が少ない関連がみられた週150~300分程度の中強度身体活動が、欧州心臓病学会(ESC)が冠動脈疾患患者に推奨している運動量と重なっていることです。(参考文献4)

心臓病を経験した人にとって大切なのは、最初から大量の運動を目指すことではありません。

まず自分に安全な範囲を確認し、少しずつ増やしながら、続けられる運動を生活の中に定着させる。

今回の研究は、その考え方と整合する観察結果といえそうです。

主治医や心臓リハビリ担当者に運動強度を確認したうえで、[高齢者に最適!全世代に効く頭も体も生き返る 続けやすいインターバル速歩]も参考にしてください。

そして、介護フリーという視点では、歩くだけでなく筋力を守ることも重要です。

椅子から立つ。

階段を上る。

買い物袋を持つ。

転びかけたときに踏ん張る。

どれにも筋力が必要です。

日本のガイドラインでも、高齢の冠動脈疾患患者には、有酸素運動とレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)の併用が推奨されています。(参考文献1)

目標は筋肉ムキムキになることではありません。

大切なのは、10年後も、自分の脚で立ち、自分の足で生活できる筋力を残すことです。

加齢で低下しやすい筋力については、高齢者 転倒リスクが高まる前に始めたい速筋トレーニング習慣で詳しく解説しています。

なお、胸骨を切開する手術を受けた人では、術後しばらくは上半身に大きな負荷をかける運動を避けるなどの注意が必要です。実際の開始時期や負荷は、担当医や理学療法士の指示を優先してください。(参考文献1)

心臓リハビリは、運動だけで完成しない

心臓リハビリには食事も含まれます。

冠動脈疾患患者1,002人を約7年間追跡したRCTでは、野菜、果物、豆類、全粒穀物、魚、オリーブ油などを多く取り入れた地中海食群で、低脂肪食群より主要心血管イベントの起こりやすさが約28%低いという結果でした。(参考文献3)

もちろん、

「地中海食を食べれば心筋梗塞が28%減る」

と単純化することはできません。

しかし、この結果は、心臓病の治療後には、運動だけでなく食事も二次予防の重要な柱になることを示す一つの根拠です。

運動、食事、服薬、血圧・脂質・血糖管理、禁煙。

心臓リハビリとは、こうした生活全体を立て直す治療なのです。

「人生最後の20年」の記事と、ここで一本につながった

今回、心臓リハビリについて調べながら、私は2026年9月に書いた別の記事を思い出しました。

「見事に生ききる――『人生最後の20年』を死から逆算し、今できることを考える」

という記事です。

そこで紹介した研究では、生活に人の助けが必要になるずっと前から、体と心の総合力――内在能力は少しずつ低下していることが示されていました。(参考文献6)

では、その力を保つために何ができるのか。

別のRCTの系統的レビューでは、内在能力やQOLなどの多次元的健康指標を改善する介入として、最も一貫した結果を示していたのが運動でした。(参考文献5)

その記事で私は、

「余力が残っているうちに、余力を使って動き、余力を守る。」

と書きました。

そして今回、心臓リハビリを調べていて、その続きが見えた気がしました。

運動で余力を守る
↓
もし心臓病になったら治療を受ける
↓
心臓リハビリで安全に再び動く
↓
体力と筋力を取り戻す
↓
運動を日常生活へ戻す
↓
自立生活をできるだけ長く守る

もちろん、この一連の流れによって「介護を防げる」と直接証明されたわけではありません。

研究対象も評価項目も違います。

それでも、

高齢期の総合的な健康能力を支える介入として運動が一貫した結果を示し、心臓病の後にも運動を中心とする心臓リハビリが心筋梗塞や入院を減らし、QOLを改善する。

そして維持期の運動は、生涯続けることが推奨されています。(参考文献1、2、5、6)

別々の研究なのに、向いている方向は驚くほどよく似ています。

私には、心臓リハビリとは、

病気によって一度途切れかけた「自分の体を使い続ける人生」を、もう一度安全につなぎ直す仕組み

のように見えてきました。

退院するとき、私はこの5つを主治医に聞く

では、具体的に何をすればよいのでしょうか。

退院時、あるいは次回診察で、まず次の5つを確認してみてください。

  1. 私は外来の心臓リハビリを受けられますか?
  2. ウォーキングはいつから、何分くらい始めればよいですか?
  3. 少し息が弾むくらいまで運動して大丈夫ですか?
  4. 筋力トレーニングはいつから始められますか?
  5. どんな症状が出たら運動をやめるべきですか?

この5つが分かれば、

「怖いので何もしない」

から、

「ここまでは安全に動いてよい」

へ変わります。

それが最初の一歩です。

最後に――病気で立ち止まっても、また動き始める

私は62歳で心房細動のアブレーション治療を受け、普通の生活を取り戻しました。

今振り返れば、

「心房細動を止めてもらったこと」と「その後も動ける体を維持すること」は別の問題でした。

以前の記事では、

「困ってから動くのではなく、困っていないうちから動く。」

と書きました。

今回、そこにもう一行付け加えたいと思います。

元気なうちは、余力を守るために動く。

病気になったら、治療を受ける。

治療が終わったら、また安全に動き始める。

そして、その運動を再び自分の生活に戻していく。

私が今回の研究から受け取ったのは、この一本の流れです。

病気で一度立ち止まっても、また動き始める。

それが、

「助かった命」を「最後まで動ける人生」につなぐ心臓リハビリ

の意味なのだと思います。

心臓の治療を受けた方は、次の診察で一度、

「先生、私は心臓リハビリを受けた方がいいですか?」

と聞いてみてください。

その一言が、治療の「その後」を変える最初の一歩になるかもしれません。

よくある質問

心臓の手術やカテーテル治療を受けた人は、全員が心臓リハビリを受けた方がよいのでしょうか?

心臓リハビリの対象は、心筋梗塞、狭心症、心不全、冠動脈バイパス術後、弁膜症手術後、TAVI(経カテーテル的大動脈弁植え込み術/留置術)後、不整脈や心臓デバイス植込み後、大動脈疾患など幅広く設定されています。 (参考文献1)

ただし、すべての人が同じ内容の運動を行うわけではありません。病気の種類、心機能、不整脈、体力、手術方法などによって適切なプログラムは異なります。まず主治医に「私は外来の心臓リハビリの対象ですか?」と確認するのがよいでしょう。

退院したら、自分でウォーキングをすれば心臓リハビリの代わりになりますか?

ウォーキングは心臓リハビリの重要な一部ですが、それだけが心臓リハビリではありません。

心臓リハビリには、運動だけでなく、食事、服薬、血圧・脂質・血糖管理、禁煙、患者教育なども含まれます。(参考文献1)

また退院直後は、「どこまで運動して安全なのか」を確認することが大切です。状態が安定した低リスクの人では、その後に在宅運動を中心へ移していくことも可能です。

心臓リハビリはいつまで続ければよいのでしょうか?

病院で行う心臓リハビリには期間がありますが、運動や生活管理そのものはそこで終わりではありません。

日本のガイドラインでは、社会復帰後の「維持期」の心臓リハビリは、生涯にわたって続けるものとされています。 (参考文献1)

これは一生病院へ通い続けるという意味ではありません。病院で身につけた運動や生活習慣を、散歩、買い物、筋力トレーニングなどの日常生活へ移していくことが目標です。

高齢者はウォーキングだけで十分ですか?

ウォーキングは重要ですが、高齢者では筋力を守ることも大切です。

椅子から立つ、階段を上る、荷物を持つ、転びそうになったときに踏ん張る、といった日常動作には筋力が必要です。

日本のガイドラインでは、高齢の冠動脈疾患患者に対して、有酸素運動とレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)の併用が推奨されています。(参考文献1)

ただし、心臓の状態や関節疾患、フレイルの程度によって適切な負荷は異なるため、特に開始時は専門家の指導を受けるのが安全です。

心臓リハビリを続ければ、将来の要介護を防げますか?

そこまでは現在の研究から断定できません。

2026年のCochraneレビューでは、心臓リハビリによって心筋梗塞や入院が少なくなり、QOLが改善することが示されましたが、「要介護になるかどうか」を直接調べた研究ではありません。(参考文献2)

一方、高齢者の内在能力やQOLなどの多次元的健康指標を改善する介入として、運動は比較的一貫した結果を示しています。(参考文献5)

したがって、「心臓リハビリで介護を防げる」とは言えませんが、自立生活に必要な体力や筋力を維持するうえで重要な手段の一つと考えるのが適切です。

開胸手術後は、いつから筋力トレーニングを始められますか?

胸骨を切開する手術を受けた場合、上半身に大きな負荷をかける筋力トレーニングは慎重に始める必要があります。

ガイドラインでは、胸骨の骨癒合が完成するまでの術後約3か月は、過度な上肢トレーニングを避けることが望ましいとされています。一方、関節が硬くならないよう、軽い可動域運動は早期から行います。 (参考文献1)

実際にいつ、どの程度から始めるかは手術方法や回復状態によって違うため、担当医や理学療法士の指示を優先してください。

参考文献

  1. 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会, 2021, 「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」 2021年3月27日発行(2022年12月20日更新). 班長:牧田 茂. 無料
  2. Grace Dibben et al., 2026, “Exercise-based cardiac rehabilitation for coronary heart disease” Cochrane Database Syst Rev. 2026 Sep 18;9:CD001800. doi: 10.1002/14651858.CD001800.pub5. PMID: 42754260. 有料
  3. Liusheng Mo et al., 2026, “Association of the Mediterranean Diet, Physical Activity and Related Lifestyle Factors on the Mortality and Major Adverse Cardiovascular Events in Patients with Coronary Heart Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis” Nutrients. 2026 Aug 7;18(16):2589. doi: 10.3390/nu18162589. PMID: 42654169. 無料
  4. Zhiwei Tao et al., 2026, “Non-Occupational Physical Activity and All-Cause Mortality in Patients with Coronary Heart Disease: A Dose–Response Meta-Analysis” Eur J Prev Cardiol. 2026 Sep 30:zwag510. doi: 10.1093/eurjpc/zwag510. 無料
  5. Haoxin Tina Zheng et al., 2026, “Interventions that prolong multidimensional healthspan in humans: a systematic review of randomized controlled trials” J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2026 Jul;81(7):glag133. doi: 10.1093/gerona/glag133. PMID: 42172592. 無料
  6. Olivia S Malkowski et al., 2026, “Association between intrinsic capacity and disability before death among older adults: a decedent cohort study” Lancet Healthy Longev. 2026 May;7(5):100854. doi: 10.1016/j.lanhl.2026.100854. PMID: 42263724. 無料
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