老化は数式で説明できる!「老化細胞除去飽和モデル」の衝撃

老化は複雑な現象と思われがちですが、実は数式で説明できるかもしれません。注目の「老化細胞除去飽和モデル(SRモデル:saturating removal model)」は、老化の本質と加齢性疾患の発症メカニズムを一つの数理構造で見事に統一しました。驚きのその内容とは――。

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老化細胞に注目した新しいモデル

イスラエル・ワイズマン研究所のシステム生物学者であるウリ・アロン博士の研究チームは、老化の背後にある共通メカニズムを明らかにする数理モデルを提案しました。その名も「老化細胞除去 飽和モデル(SRモデル)」です(出典1,2,3)。

このモデルの鍵となるのが、「老化細胞(Senescent Cells, SnC)」と呼ばれる特殊な細胞です。SnCは増殖を停止し、炎症を引き起こす物質を放出することで、組織の機能を低下させます。

老化細胞除去飽和モデル/SRモデルとは

このモデルは次のような前提(細胞レベル)で構築されています:

  • 老化細胞(SnC)は年齢とともに直線的に生成される
    → 年齢が高くなるほど、新たに生まれる老化細胞の数が一定の割合で増えていく。
  • 老化細胞は免疫系によって通常は除去される
    → NK細胞やマクロファージなどが老化細胞を認識して排除している。
  • 老化細胞自身が除去機能を抑制する
  •  → 老化細胞が分泌する炎症性因子(SASP)によって、免疫細胞の働きが鈍くなり、除去能力が低下する。
  • 除去能力が「飽和」する
    → 老化細胞が増えると、除去の速度が一定の上限に達し、それ以上は処理できなくなる。
  • 結果として老化細胞が加速度的に蓄積する
    → 生成が増えて除去が追いつかなくなることで、老化細胞が体内にどんどん溜まっていく。
  • この蓄積が加齢性疾患や死亡リスクの上昇と関係する
    → 老化細胞が一定量を超えると、病気の発症や生体機能の低下、死亡の引き金になると考えられる。

ゴンペルツ則を説明できる

このモデルの大きな特徴は、加齢とともに死亡率が指数関数的に上昇し高齢で緩やかになる「ゴンペルツ則」(人口統計上の法則)を自然に説明できる点です。SnCが一定の閾値を超える(ミクロの仮定)ことで疾患や死亡が起こると仮定するだけで、この統計法則(マクロの法則)が導かれるのです。

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若返りのメカニズムも解明

さらに興味深いのが、「パラビオシス実験」の結果をも説明できることです。これは若いマウスと老いたマウスの血液をつなげる実験で、老いたマウスが若返るという現象が観察されます。SRモデルによると、若いマウスの“余った除去能力”が老マウスに移行することで、SnCの蓄積が一時的に解消されると考えられます。この老若パラビオシス実験だけでなく若若パラビオシス、老老パラビオシス実験での老化細胞の挙動もこのモデルで見事に説明できます。動物レベルで起こる奇妙な現象をミクロの老化細胞の動きで説明できるのです。

参考記事:パラビオシス試験は、老化メカニズムを明らかにした

予防可能な病気を見分けられる

SRモデル式には確率的ばらつき項が含まれていて、病気ごとに確率的ばらつき量を推定できます。これにより、この項が大きい疾患は生活習慣の改善で影響を受けやすい疾患であり、そうでない疾患は遺伝的支配が大きい疾患として分類することが可能になります。つまり、予防に力を入れるべき病気が見えてくるのです。

長寿法も分類できる

また、このモデルを使えば、長寿法を「ピンピンコロリ型(健康寿命が長く最期は急に死を迎える)」と「ジワジワ型(少しずつ衰える)」に分類できます。これは老化研究において実践的なヒントになります(出典4)。
参考記事:【2025年版】科学的に正しいピンピンコロリな健康長寿法とは?
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老化研究の新しい時代へ

ウリ・アロン博士らのSRモデルは、これまでバラバラに語られてきた老化や加齢性疾患の謎を、一つの数理構造で統一的に説明しています。今後の老化予防、アンチエイジング、医療戦略においても、極めて有望な指針となることでしょう。

参考記事:パラビオシス試験は、老化メカニズムを明らかにした

出典

「出典」から根拠論文にアクセス!このブログの使い方ガイド

  1. Omer Karin et al., 2019, “Senescent cell turnover slows with age providing an explanation for the Gompertz law” Nat Commun. 2019 Dec 2;10(1):5495. doi: 10.1038/s41467-019-13192-4. 無料
  2. Omer Karin & Uri Alon, 2021, “Senescent cell accumulation mechanisms inferred from parabiosis” Geroscience. 2021 Feb;43(1):329-341. doi: 10.1007/s11357-020-00286-x. Epub 2020 Nov 25. 無料
  3. Itay Katzir et al., 2021, “Senescent cells and the incidence of age-related diseases” Aging Cell. 2021 Mar;20(3):e13314. doi: 10.1111/acel.13314. Epub 2021 Feb 8. 無料
  4. Yifan Yang et al., 2025, “Compression of morbidity by interventions that steepen the survival curve” Nat Commun. 2025 Apr 8;16(1):3340. doi: 10.1038/s41467-025-57807-5. 無料

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