「運動は体にいい」「運動は無料の万能薬」と広く認識されていますが、それがどの程度、どのように高齢者の健康に良いのかを、正確に理解している人は少ないかもしれません。
実は、高齢者は若年者より運動効果が出にくいのです。だからこそ、高齢者に合った「効果を出すための運動の知識」が必要です。
この記事では、「なぜ高齢者では運動の健康効果が小さくなるのか?」という問いに対し、考えられる2つの理由とその対策を解説します。筋肉量の増やし方と効果が期待できる運動強度の設定方法、これらを押さえることで、運動の恩恵を最大化しましょう。
運動は健康に良い
まず、「運動は健康に良いか?」という問いに対して、信頼できる答えはYESです。
特に、日常の運動習慣は死亡リスクを下げることが、複数の大規模研究で明らかになっています(出典1)。さらに、がん生存率も上げます(出典2)。さらにさらに、運動は骨格筋でのミトコンドリア生合成促進、心筋での収縮力向上、神経組織での神経新生を引き起こす(出典3)。運動によるこれら組織の細胞レベルでの若返りは介護予防のキーである認知機能と移動機能の低下を抑制します。
ただし、高齢者の健康効果は若年者よりも小さいことも事実です(出典1)。
なぜ高齢者では運動の健康効果が小さいのか?
考えられる理由は主に2つです。
① 健康効果を媒介する筋肉量が少なくなっている⇒有酸素運動+筋トレが必要
② 有酸素運動の運動強度が足りていない(最適な心拍数で運動していない)
①筋肉量を増やすには?──高齢者に最適な食事と筋トレの工夫
- 朝のタンパク質がカギ
朝食でのタンパク質摂取は、特に高齢者において筋肉量の維持・増加と強く関連しています(出典4)。 - 目安としては、1食あたり20~30gのタンパク質が推奨されます(出典5)。
おすすめ食品:鶏肉、魚、卵、大豆製品、牛乳・ヨーグルトなどの乳製品。 - 加齢に伴い特に衰えやすい筋肉は以下の通りです(出典6):
- 大腿四頭筋(太もも前)
- ハムストリングス(太もも裏)
- 腹直筋(腹筋)
これらは姿勢保持にも関係する「抗重力筋」であり、転倒予防や自立生活維持に直結するため、意識的にスクワット・腹筋トレーニングをしましょう。
②効果的な有酸素運動強度とは?──正しく心拍数を管理する
週あたりの推奨運動量
中~高強度の運動:週150分以上
または高強度運動:週75分以上(出典7)
心拍数で見る運動強度の目安
運動強度 | 最大心拍数の% | ※心拍数予備能の% |
中強度/moderate | 50 – 70% | 40 – 59% |
高強度/vigorous | 70 – 85% | 60 – 84% |
※心拍数予備能 = 最大心拍数 − 安静時心拍数
安静時心拍数は朝起床時など、5分以上安静にした後に測りましょう。
参考記事:最適な心拍数で運動するには:運動効果がぐんと上がる!腕バンド型心拍計のすすめ
参考記事:高齢者に最適!全世代に効く頭も体も生き返る 続けやすいインターバル速歩
最大心拍数の正しい推定:Tanaka式を使う理由
市販の運動アプリや心拍数計では「最大心拍数 = 220−年齢」が使われがちですが、これは高齢者では最大心拍数が低く見積もられ目標心拍数が低く推定され適切な運動強度に達しません。
代わりに、「Tanaka式:208 − 0.7 × 年齢」を使いましょう(出典8)。
Tanaka式のメリット
- 高齢者でも正確な推定が可能
- 男女や運動習慣に左右されにくい
- 大規模・多様なデータに基づいている
- 過小評価による運動効果の損失を防ぐ
まとめ
高齢者が運動でしっかりと健康効果を得るためには、正しい方法と知識に基づいた運動が不可欠です。
- 有酸素運動(インターバル速歩)とともに筋トレが必要。
- 筋肉量を増やすには、朝食でのタンパク質摂取と、抗重力筋の筋トレが効果的。
- 有酸素運動強度の管理には、正確な最大心拍数(Tanaka式)と心拍数予備能による個別設定が重要。
「なんとなく動く」ではなく、「科学的に正しく動く」ことで、運動の効果は確実に高まります。 高齢になっても「運動は効く」。その効果を最大化する知識を、今日から実践に活かしましょう。
出典
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- Ulf Ekelund et al., 2019, “Dose-response associations between accelerometry measured physical activity and sedentary time and all cause mortality: systematic review and harmonised meta-analysis” BMJ. 2019 Aug 21:366:l4570. doi: 10.1136/bmj.l4570. 無料
- Zoltan Ungvari et al., 2025, “Exercise and survival benefit in cancer patients: evidence from a comprehensive meta-analysis” Geroscience. 2025 Apr 12. doi: 10.1007/s11357-025-01647-0. Online ahead of print. 無料
- David Walzik et al., 2024, “Molecular insights of exercise therapy in disease prevention and treatment” Signal Transduct Target Ther. 2024 May 29;9(1):138. doi: 10.1038/s41392-024-01841-0. 無料
- Inn-Kynn Khaing et al., 2025, “Effect of breakfast protein intake on muscle mass and strength in adults: a scoping review”, Nutr Rev. 2025 Jan 1;83(1):175-199. doi: 10.1093/nutrit/nuad167. 有料
- Stephen D Anton et al., 2020, “Innovations in Geroscience to enhance mobility in older adults” Exp Gerontol. 2020 Dec:142:111123. doi: 10.1016/j.exger.2020.111123. Epub 2020 Oct 22. 無料
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- Warburton, D. E. R. et al., 2007, “Evidence-informed physical activity guidelines for Canadian adults.” Can. J. Public Health 98(Suppl. 2), S16–S68., doi: 108. H Tanaka et al., 2001, “Age-predicted maximal heart rate revisited” J Am Coll Cardiol. 2001 Jan;37(1):153-6. doi: 10.1016/s0735-1097(00)01054-8. 無料