「年をとったら肉を食べなきゃ!」という言葉、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?確かに、肉にはタンパク質が豊富で、筋力維持に役立つとされ、糖質制限ブームに乗って「肉はいくら食べてもOK」と信じる人も増えました。かく言う筆者も、かつてはその一人でした。
しかし最近、「肉中心の食事は、がんや心血管疾患、糖尿病などの現代病と深く関係している」という論文に出会い、肉との付き合い方を根本から見直すことに。この記事では、最新の研究結果をもとに、赤肉・加工肉がどのような健康リスクをもたらすのかを掘り下げていきます。
※本記事における”お肉”とは、牛肉・豚肉・羊肉・馬肉・山羊肉などの哺乳類の肉(=赤肉)と、それらの加工品(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)を指します。鶏肉や魚は含まれません。
高齢者にとってのタンパク質:何を選ぶかが重要
高齢者では、タンパク質の摂取不足により血中アルブミン濃度が低下し、低アルブミン血症に陥りやすいことが知られています。これは全身の機能低下、ひいては死亡リスクの上昇に直結します(出典1, 2)。
ただし、これは必ずしも「肉を食べなければならない」ことを意味するわけではありません。実際、日本人高齢者のタンパク質摂取低下の原因は、つまり消化吸収の良い肉から吸収の悪い魚や豆腐への嗜好の変化にあるとする報告もあります(出典3)。
研究者らは、肉に頼らず、魚や豆腐といった比較的さっぱりした食品に加え、吸収効率が高い鶏卵を取り入れることで、十分にタンパク質を補えるとしています。
「毎日お肉」は筋力と俊敏性(移動機能)の低下を招く
英国の高齢者を対象とした研究では、赤肉や肉汁、ジャガイモ中心の食生活を送る人々は、加齢に伴う筋力や俊敏性の低下が顕著であることが報告されました(出典4)。
つまり、毎日肉を食べることが習慣になっている人は、サルコペニア(加齢性筋力低下)から寝たきりへのリスクが高まっているということ。私たちが目指す“最期まで元気で自立した生活”には、肉の習慣的な摂取を控えるという判断が賢明だと言えます。
「毎日お肉」は認知機能の低下も促進
「肉を食べれば脳にも良い」と思われがちですが、実際のデータはそれを否定しています。米国で行われた研究では、赤肉や加工食品中心の食事(いわゆる”西洋型食事パターン”)をとるグループは、認知機能の低下速度が速まることが分かっています(出典5)。
一方で、野菜・ナッツ・魚・全粒粉などを中心とした”MIND食”習慣を守ることで、認知機能の低下を大きく抑えられることが明らかになっています(出典5)。期待の新薬(アミロイドβ除去薬)でも認知機能低下速度を少しだけ低下させるのが精いっぱいです(出典6)。予防が一番です。食生活の改善で認知機能低下を防ぎましょう。
赤肉・加工肉の摂取は老化とがんのリスクを加速
世界がん研究基金(WCRF)は、赤肉の過剰摂取が「ほぼ確実に」結腸直腸がんリスクを高めると警告しています。加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)に至っては「確実に」リスクが上がると断言しています(出典7)。
さらに、赤肉や加工肉の摂取量と全死亡リスクの関係を示したメタアナリシスでは、1日の摂取量が増えるほど死亡リスクも直線的に増加することが示されています(出典8)。特に加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)は赤肉以上にリスクが高いことが分かっています。
高齢者に適したタンパク源とは?
それでは、どんなタンパク源を選べばよいのでしょうか?答えは明快です。メタアナリシスによれば、魚や豆類の摂取量が増えるほど死亡リスクが下がる、すなわち老化速度を緩やかにする効果があるとされています(出典8)。
そして、鶏肉は赤肉・加工肉のようにリスクを上げることはなく、中立的と評価されます。魚や豆腐を基本にしつつ、変化をつけたいときには鶏肉を取り入れるのが良いでしょう。
まとめ:肉との“ほどよい距離感”を保とう
- 高齢者は、年齢とともにタンパク質不足に陥りやすく、意識的な摂取が必要です。
- 赤肉や加工肉は、筋力・認知機能・がん・寿命にマイナスの影響があることが複数の研究で示されています。
- 主なタンパク源は、魚や豆腐(木綿がおすすめ)を基本に、鶏肉や卵でバリエーションをつけましょう。
- 赤肉・加工肉は「ハレの日」や「ごほうび」としてたまに楽しむのがベスト。食べる際は野菜もしっかり添えて、リスクを最小限に!
「毎日お肉」は、実は毎日ちょっとずつ老化を進める行為かもしれません。今日から、あなたの“たんぱく習慣”を見直してみませんか?
参考記事:「赤肉=老化促進」の真犯人は“異物糖”Neu5Gc!!
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出典
- Gom I et al.,2007, “Relationship between serum albumin level and aging in community-dwelling self-supported elderly population” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2007 Feb;53(1):37-42. doi: 10.3177/jnsv.53.37. 無料
- Schalk BWM et al., 2006, “Change of serum albumin and risk of cardiovascular disease and all-cause mortality: Longitudinal Aging Study Amsterdam” Am J Epidemiol. 2006 Nov 15;164(10):969-77. doi: 10.1093/aje/kwj312. Epub 2006 Sep 15. 有料
- 長谷川範幸ら 2010年「高齢者の栄養状態と予後」日本老年医学会雑誌 2010;47:433-436 無料
- Granic A et al., 2016 “Effect of Dietary Patterns on Muscle Strength and Physical Performance in the Very Old: Findings from the Newcastle 85+ Study” PLoS One. 2016 Mar 2;11(3):e0149699. doi: 10.1371/journal.pone.0149699. eCollection 2016. 無料
- Morris MC, 2015, “MIND diet slows cognitive decline with aging” Alzheimers Dement. 2015 Sep;11(9):1015-22. doi: 10.1016/j.jalz.2015.04.011. Epub 2015 Jun 15. 有料
- Christopher H van Dyck et al., 2023, “Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease” N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):9-21. doi: 10.1056/NEJMoa2212948. Epub 2022 Nov 29 無料
- Continuous Update Project, World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research, 2021, “Meat, fish and dairy products and the risk of cancer. 2018” 無料
- Schwingshackl L. et al., 2017, “Food groups and risk of all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of prospective studies” Am J Clin Nutr. 2017 Jun;105(6):1462-1473. doi: 10.3945/ajcn.117.153148. Epub 2017 Apr 26. 無料