「赤肉=老化促進」の真犯人は“異物糖”Neu5Gc!!

「お肉を毎日食べているけど、体調は絶好調だよ!」
そんな声が聞こえてきそうです。確かに、赤肉(牛・豚・羊などの哺乳類の肉)にはタンパク質や鉄分が豊富で、活力の源と感じる方も多いでしょう。

ですが、近年の研究では「赤肉・加工肉の常食は死亡リスクを高める」とする結果が次々と発表されています。
参考記事:毎日お肉が健康を害する! 最新研究成果を取り入れよう

なぜなのか? なぜ鶏肉や魚、豆類ではそうならないのか?その“本当の理由”に迫ってみましょう。

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赤肉の「容疑者たち」:今までの4つの説はすべて“シロ”?

これまで考えられてきた赤肉の健康リスクの犯人候補は以下の4つです:

  1. おこげに含まれる発がん物質(複素環アミンなど)
  2. 飽和脂肪酸(いわゆる脂身)
  3. TMAO(腸内細菌がカルニチンやコリンを代謝してできる物質)
  4. ヘム鉄が生成促進するニトロソアミン

ところが、これらはすべて「赤肉に限った問題ではない」ことが判明しています。

  • 魚や鶏でもおこげ由来の発がん物質は出る(出典1)
  • 飽和脂肪酸の摂取と死亡リスクは明確な相関がない(出典2)
  • TMAOの元となるコリンは野菜や魚にも豊富(出典3)
  • ニトロソアミンの発がん性もヒトでは確証がない(出典4)

つまり、赤肉だけが死亡リスクを高めるという点を説明できる真犯人は、この4つではなかったのです。

注目の新説:「Neu5Gc」という“異物糖”が真犯人?

最新の注目は「Neu5Gc(N-グリコリルノイラミン酸)」という特殊な糖質です。

哺乳類の細胞表面には糖鎖という“水草のような構造”があり、その末端に「シアル酸」という糖が存在します。ヒト以外の哺乳類はNeu5Gcというタイプのシアル酸を持っていますが、ヒトだけは約280万年前に、このNeu5Gcを合成する酵素(CMAH)を失ってしまったのです。そのため、ヒトの体内にはNeu5Gcは本来存在しません。

ところが、赤肉を食べると、このNeu5Gcが体内に“異物”として取り込まれてしまいます。これが大腸や血管の細胞表面に取り込まれると、免疫系はそれを異物と認識して炎症反応を起こします。その慢性的な炎症が、動脈硬化・大腸がん・糖尿病といった加齢性疾患の引き金になるというのが「Neu5Gc犯人説」です。

「ヒト型マウス」での驚きの再現実験

この仮説を裏づけるために、CMAH遺伝子を欠失させた“ヒト型マウス”が開発されました。このマウスにNeu5Gcを含む赤肉由来の餌を与えると:

  • 動脈硬化(出典5)
  • 大腸がん(出典6)
  • 糖尿病(出典7)
    が、高頻度で発生しました。つまり、「赤肉=疾患リスク」というヒトの疫学データが、実験動物でも見事に再現されたのです。

なぜヒトは280万年前にNeu5Gcを失ったのか?

実は、Neu5Gcを失ったことでヒトの祖先は「感染症に強くなった」と考えられています。

チンパンジーに感染するマラリア原虫は、Neu5Gcがないヒト細胞には感染できません(出典8)。この変化は、人獣共通感染症からヒトの祖先を守った進化上の恩恵だったのです。

さらに、「疲れにくくなった」「脳が進化した」という利点も。

  • Neu5Gcを持たない“ヒト型マウス”は、普通のマウスの2倍長く走れる(出典9)
  • 哺乳類の中で脳細胞だけはNeu5Gcを合成しない。Neu5Gcが脳の発達を妨げるとすれば、それを全身で失ったことがヒトの脳進化を後押しした可能性もあるのです(出典10)

Neu5Gcが少ない「安全な食材」とは?

Neu5Gcを多く含む食品は、哺乳類由来のものです。

  • 赤肉(牛・豚・羊・ジビエ):高リスク
  • 牛乳・チーズ:ややリスク(チーズは濃縮されるので注意)
  • 鶏肉・鶏卵・魚:Neu5Gcなし!
  • 野菜・果物:完全に安全!
  • キャビア:意外にも高リスク!(魚の卵に高濃度Neu5Gc)

つまり、魚や鶏、野菜を中心にした食生活は、Neu5Gcフリーで老化疾患を防ぐ食事と言えます。

まとめ:280万年前の遺伝子欠失が、今も私たちの食生活を左右している

  1. 赤肉・加工肉の健康リスクの本当の理由は「Neu5Gc」というヒトには異物となる糖が原因。
  2. ヒトはNeu5Gcを持たない進化を選び、その代償として赤肉への免疫反応を抱えることに。
  3. Neu5Gcによる持続的な炎症が、動脈硬化・大腸がん・糖尿病などを引き起こす。
  4. Neu5Gcを避けた食材(魚、鶏、野菜、豆腐)を中心に食べることが、健康長寿の鍵!

赤肉がまるで“開けてはいけない玉手箱”だったとは驚きです。
「元気な老後を迎えたい」なら、280万年前の進化の声に耳を傾けて、今日から“Neu5Gcフリー”の食卓にシフトしてみませんか?

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出典

「出典」から根拠論文にアクセス!このブログの使い方ガイド

  1. Heddle JA, Knize MG, Dawod D & Zhang XB, 2001, “A test of the mutagenicity of cooked meats in vivo” Mutagenesis. 2001 Mar;16(2):103-7. doi: 10.1093/mutage/16.2.103. 有料
  2. de Souza RJ et al., 2015, “Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies” BMJ. 2015 Aug 11;351:h3978. doi: 10.1136/bmj.h3978. 無料
  3. Patterson, KY., et al., 2008, “USDA Database for the Choline Content of Common Foods : Release Two.” Agricultural Research Service, U.S Department of Agriculture; 2008. 無料
  4. Dubrow R et al., 2010, “Dietary components related to N-nitroso compound formation: a prospective study of adult glioma” Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2010 Jul;19(7):1709-22. doi: 10.1158/1055-9965.EPI-10-0225. Epub 2010 Jun 22. 有料
  5. Kawanishi K et al., 2019, “Human species-specific loss of CMP- N-acetylneuraminic acid hydroxylase enhances atherosclerosis via intrinsic and extrinsic mechanisms” Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Aug 6;116(32):16036-16045. doi: 10.1073/pnas.1902902116. Epub 2019 Jul 22. 無料
  6. Samraj AN et al., 2014, “A red meat-derived glycan promotes inflammation and cancer progression” Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jan 13;112(2):542-7. doi: 10.1073/pnas.1417508112. Epub 2014 Dec 29. 無料
  7. Sarah Kavaler S et al., 2011, “Pancreatic beta-cell failure in obese mice with human-like CMP-Neu5Ac hydroxylase deficiency” FASEB J. 2011 Jun;25(6):1887-93. doi: 10.1096/fj.10-175281. Epub 2011 Feb 24. 有料
  8. Martin MJ et al., 2005, “Evolution of human-chimpanzee differences in malaria susceptibility: relationship to human genetic loss of N-glycolylneuraminic acid” Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Sep 6;102(36):12819-24. doi: 10.1073/pnas.0503819102. Epub 2005 Aug 26. 無料
  9. Jonathan Okerblom J et al., 2018, “Human-like Cmah inactivation in mice increases running endurance and decreases muscle fatigability: implications for human evolution” Proc Biol Sci. 2018 Sep 12;285(1886):20181656. doi: 10.1098/rspb.2018.1656. 無料
  10. Chou H-H et al., 2002, “Inactivation of CMP-N-acetylneuraminic acid hydroxylase occurred prior to brain expansion during human evolution” Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Sep 3;99(18):11736-41. doi: 10.1073/pnas.182257399. Epub 2002 Aug 21. 無料
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